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maxonのGPX UPマイクロギヤヘッド


maxonは、標準マイクロギヤヘッドの新製品シリーズをとして、独自のアップグレードを開発しました。広範囲にわたる性能改善によって新たな可能性が生まれ、コンパクトなデザインで高出力を発揮します。
UPギアヘッドの最初のアイデアは、過酷な環境条件下でも可能な限り最高の可用性を確保する必要がある、ESAの火星プロジェクト「ExoMars」およびNASAの「Mars 2020」プロジェクトで生まれました。
多くの場合、先駆的技術の進歩はフォーミュラ1 (F1) の関連で行われ、それから徐々に日常で使う普通の車両に導入されます。maxonの場合、これらの進歩は航空宇宙プロジェクトへの取り組みにおいて生まれ、それから産業分野に導入されるということがよくあります。
GPX UP、パワフルな新シリーズのギアヘッド
この新シリーズのギヤヘッドの大きな利点は、優れた効率性です。ここでは、効率性は出力電力と入力電力の関係として定義することができます。あらゆる機械システムで発生する摩擦を大幅に低減することは、ドライブの最適化に直結しています。UPシリーズの新型GPXプラネタリギアヘッドでは、技術的位置変更が行われています。従来の遊星ギアヘッドでは遊星歯車は支持軸上の滑り軸受に直接配置されていますが、新型シリーズでは遊星歯車はボールまたはニードルベアリングの上方に配置されています。機械工学では、これを「滑り摩擦から転がり摩擦への移行」と呼びます。
たとえば、3段構成のGPX32 UPの場合は、最大で約90%の効率を確保することができます。同等の小型ギヤヘッドは約70%の効率を達成します。従来の設計と比較して、上記のエンジニアリング進化により、効率は1.3倍、すなわち30%向上しています (図3)。
この効率は、駆動システムのその他のパラメータにも直接影響します。同じ入力電力の場合、すなわち同じモータとモータ制御システムを使用した場合、ギヤヘッドは 30%高いトルクを発揮します。これを言い換えると、同じ出力電力でも、ドライブに必要な入力電力 が23%少なくなる計算になります。これにより、特にバッテリー駆動のアプリケーションに使用する場合、次の充電サイクルまでの潜在的作動時間が大幅に長くなります。
必要な入力電力が低くなることで、使用されるモータをより有利な動作点で動作させることができるようになります。このため、モータの効率が向上し、駆動システム全体の効率も向上します。
代わりに、より小型および/またはより軽量のモータおよび電子機器を使用することも可能です。これにより、重量だけでなく費用の面でも利点がもたらされます。
ギヤヘッドの寿命を大幅に延長: 上記の通り、遊星歯車軸システムの摩擦は大幅に低減することが可能です。これと同時に摩擦力も低くなるため、ドライブの運転による発熱が大幅に減少します。特に、温度が一定レベルを超えてはならない用途 (医療用電動工具など) では、出力の向上が実現します。
潤滑剤の耐久性は、ギヤヘッド機械部品の磨耗に重要な影響を与えます。熱応力が高ければ高いほど、潤滑特性はより早く失われます。これにより機械システムの摩耗がより早く生じ、摩耗が進行することになります。また、摩耗した金属粒子も潤滑剤の凝集を引き起こし、潤滑作用が損なわれる可能性があります。
入熱が減じられることで、その他の使用条件が同じなら、長寿命化が実現します。GPX UPでは、この効果は卓越した特長として発揮されます: 類似する従来のmaxonギヤヘッドと比較した場合、寿命は5倍に延長されます。また、市販の競合モデルと比較した場合、寿命は11倍です。
トルク対直径比 (出力密度) が大幅に向上されるため、耐用年数を長くする代わりに、より小型で軽量のギヤヘッドを使用することもできます。
ギヤヘッド可逆性を可能にする追加機能
新しい設計の利点は、ギヤヘッド仕様の個々のパラメータが改善されるだけではありません。GPX UPギアヘッドは、新しい応用分野、特にフォースフィードバックアプリケーションとして知られる分野にも対応できるようになっています。
これらのアプリケーションでは、GPX UPバージョンのエンジニアリングの利点が大いに発揮されます。取り付けられた遊星歯車を使用することで、通常の動作でギヤヘッドをスムーズに逆回転させることが可能になり、必要に応じてオペレータにフィードバックも提供できます。正確には、測定式または触覚式機械的フィードバックが、力およびトルクを生成する要素に出力されます。これを可能にするには、ギヤヘッドが可逆的特性を有している必要があります。すなわち、ドライブの出力側に加えられるトルクまたはトルクの変化が、比例して入力側に伝達される必要があるのです。
次の例は、このアプリケーションを示しています: 電子飛行制御システム (フライバイワイヤ) では、パイロットのステアリング動作は、従来のシステムのように機械的または油圧的にアクチュエーターに伝達されるのではなく、電子的に伝達されます。ただしこの場合、オペレータはステアリング動作に関する実際のフィードバックをまずはすべて失います。操縦桿にドライブを装備することで、電子的に送信されたフィードバックがパイロットの手に機械的に伝達されます。追加で取り付けられたドライブが操縦桿の動きを妨げないようにするため、通常操作では特に逆回転操作が必要になります。
類似のプロセスは、超微細手術や遠隔手術の分野における革新的手術ロボットにも当てはまります (図5)。この分野では、オペレータが実行した動作と、触れずに残すべき健康な組織に関して、直接的かつ具体的フィードバックをオペレータ自身が受け取ることが重要になります。可逆式ドライブは、プラントや機械建設分野でも需要があります。セットアップの際には、機械の軸は電力なしで出力側から移動できるようでなくてはいけません。
カスタマイズ可能な高性能ギヤヘッド
新しいGPX UPモデルには、より高い出力、高トルク、向上された効率性、非常に長い耐用年数、発熱の低減、駆動システムの軽量化、多段ギアヘッドの追加可逆機能など、一連の重要な製品利点が組み合わされています 。
これらの最初の2つの利点のみを考慮した場合、このモデルは「ウルトラパワー」ギアヘッドと呼ぶことができます。だたしその他の特徴を考慮すれば、UPがまさに「ウルトラパフォーマンス」 (Ultra Performance) の略である理由を理解することは簡単でしょう。
maxonのUltra Performance GPXギヤヘッドは、GPX22 UP および GPX32 UPの直径ですでに提供されています。また、これらは他のすべての「X」シリーズと同様にカスタマイズが可能で、オンラインでご注文いただけます。GPX42 UPバージョンは、2020年春に導入される予定です。さらに、Ultra Performanceシリーズのカスタマイズ可能なギアヘッドは、サイズØ 8~58 mmで提供されています。