maxon Story

赤い惑星に降り立つ精密ドライブ

Mars_planetMars_planet

火星では、すでに 100 台以上の maxon 電動モータが使用され、宇宙放射線、砂塵嵐、温度変動を耐え凌いできました。そして今、探査車「Perseverance」(パーセベランス) と共に、当社の精密ドライブが再び火星へ飛び立ちました。以前と同じく、ここでも成功への鍵は、標準工業製品が握っています。

今や、maxon のドライブシステムは火星探査ミッションにとって不可欠の存在です。過去 30 年間、これらの DC モータは、これまでに成功を収めたほぼすべてのロボットミッションで使用されてきました。この赤い惑星には、すでに 100 台以上のモータが存在していましたが、2021 年 2 月に NASA の探査車 Perseverance (パーセベランス) が着陸したことで、その数は再び増加しました。宇宙ミッションは、maxon のプロジェクトのごく一部にすぎません。スイスを拠点とする同社が製造する DC モータ、BLDC モータ、コントローラ、ギアヘッド、エンコーダのほとんどは、主に医療アプリケーション、産業オートメーション、またはロボット工学といった分野で使用されています。

では、maxon が宇宙プロジェクトの重要なサプライヤーである理由は何でしょうか? 一言で言うなら、高品質な標準製品です。火星で使用されたすべてのドライブは、地球上でさまざまな用途に使用されている同社のカタログ基準製品をベースとしています。当然のことながら、過酷な条件に耐えられるよう、それらには変更を加える必要がありますが、基本的な設計は同じです。

11 台の DC モータで未知の世界へ

1997 年、人類の歴史上初めて探査車が火星表面に降り立ち、走行して、写真撮影や土壌調査を行いました。NASA の探査車「Sojourner」(ソジャーナ) は、6 つの車輪を備え、重量はわずか 11 kg。当時としては比較的低コストの実験を行うことを目的としていました。

Sojourner_web

1997 年 7 月 4 日、史上初の火星探査機「Sojourner」(ソジャーナ) が火星に着陸しました。ミッション期間は 3 か月。maxon は、ドライブ、ステアリング、および科学機器のために、直径 16 mm の DC モータ 11 台を提供しました。

ここでは、推進力、操舵、科学機器の操作に使用される 11 台の DC モータなど、標準業製品を可能な限り多く使用することが選択されました。アイアンレスロータと菱形巻線を装備した maxon ドライブは、従来の DC モータよりもパワフルで、さらにダイナミックなものでした。さらに、maxon のエンジニアは、ブラシと潤滑剤にも変更を施しました。当時、こうした変更が火星でのミッションを成功させるのに十分かどうかは、誰にもはっきりとは分かっていませんでした。過去の経験を参考にすることもできない、非常に困難な挑戦だったといえます。これらのドライブは、ロケット打ち上げ時の強い振動、飛行中の真空と宇宙放射線、火星へのハードランディング、砂塵嵐、-120~+25°C の温度変動といった過酷な環境に耐える必要がありました。しかし、ミッションは見事成功。これにより、maxon は世界的に一躍有名になりました。

火星への探査ミッションをさらに追求したいという衝動が宇宙開発の分野で高まり、壮大な疑問の追求が始まりました。火星に水や氷は存在するのか?そこに生命体は存在するのか?それとも、少なくとも以前は生命が存在していた可能性はあるのか?隣同士の惑星であるにもかかわらず、地球と火星は、なぜこのように異なる変化を遂げてきたのか?

あらゆる期待を凌駕したツイン探査機

Sojourner (ソジャーナ) のミッションが成功を収めた後、NASA はさらに 2 台の科学研究用ロボットである探査機「Opportunity (オポチュニティ)」と「Spirit (スピリット)」を同時に宇宙に送ることを決定しました。これらの探査機は、Sojourner (ソジャーナ)とはまったく異なるクラスに属するものでした。重量はそれぞれ 185 キロで、地面を磨いたり、火星の岩に穴を開けたりできる器具が装備されていました。2004 年 1 月、これらの探査機は火星に降り立ちました。2 台は互いから離れた場所に着陸し、3 か月以上にわたるミッションを直ちに開始しました。Spirit (スピリット) は、最終的に砂の中で身動きがとれなくなるまで、6 年間作動し続けました。他方、その双子の探査機である Opportunity (オポチュニティ) は実に 15 年間も作動し続け、その間の移動距離は 45 キロメートルにおよびました。このミッションに携わった科学者たちにとって、これはまさに夢の実現でした。探査機によって、生命の前提条件である水が、かつて火星に存在したに違いないことを証明することができたのです。

maxon は、このミッションでも重要な貢献を果たしました: 直径 20 mm または 25 mm の 35 個のブラシ付き DC モータがそれぞれの探査機で使用され、推進、制御、およびロボットアームの操作を担ったのです。探査機の着陸装置には、さらに 8 台の電動ドライブが使用されました。

2008 年に NASA が次の火星探査ミッションとして送り出した静止型フェニックスプローブにも、同様のモータが再び使用されました。このミッションでは、分析のために採取した土壌サンプルを加熱することで、凍った水をついに発見することができました。maxon のドライブは、プローブのソーラーパネルを位置合わせし、ロボットアームの操作する役割を担いました。

Spirit_Opportunity_web
Phoenix_web
Twinrovers_motors
Spirit_Opportunity_web
Phoenix_web
1/3

2004 年 1 月、双子の探査機「Spirit」(スピリット) と「Opportunity」(オポチュニティ) が火星に着陸しました。どちらの探査機にも、35 台の maxon ドライブが搭載されていました。同様のモータは、2008 年 5 月 25 日に火星に着陸した静止探査機 Phoenix (フェニックス) にも使用されました。ここでは、maxon は、ソーラーパネルの位置合わせとロボットアーム操作用に、特別に設計されたボールベアリングを装備した 9 台の RE25 ブラシ付き DC モータを供給しました。

火星の土壌を掘削するモータ

以来、多くの技術開発が行われました。そして今日、火星にはさらに 2 台のロボットが存在します。そのうちの 1 台は、探査車「Curiosity (キュリオシティ)」です。その寸法と測定技術において、これまでのミッションでも圧倒的に高性能な探査車です。この探査車は 2012 年より使用されており、重量はほぼ 1 トンで、10 台の計器が装備されています。このプロジェクトでは、maxon は探査車にモータの制御に必要な MR エンコーダを提供するという、微力ながらも重要な貢献を果たしました。

2018 年末、次の固定探査機「InSight (インサイト)」が火星に着陸しました。NASA のエンジニアは、ソーラーパネルを展開するために、ツイン探査車である「Spirit (スピリット)」と「Opportunity (オポチュニティ)」に以前搭載され、その実績が証明されていた RE 25 モータを採用しました。さらに、温度プローブ (名称「モグラ」) を火星の土壌内に数メートルの深さまで打ち込むために、新型のブラシ付き DCX ドライブが初めて投入されました。

Curiosity_web
InSight_on_Mars
Curiosity_web
InSight_on_Mars

2012 年 8 月に火星に着陸した「Curiosity (キュリオシティ)」は、技術のみならず、それまでの探査車をあらゆる面で凌駕していました。Curiosity (キュリオシティ) は小型自動車ほどの大きさで、重量は 900 kg、放射性同位元素の熱電発電機を動力源として作動します。maxon は、駆動軸に取り付けられた高精度エンコーダをこの探査車に搭載しました。

1/2

太古の生命の痕跡を求めて

maxon チームは、万感の思いで再び火星を見上げています: 2021 年 2 月、NASA の探査車 Perseverance (パーセベランス) が火星に着陸しました。この探査車により、かつてそこに存在しただろう生命体の痕跡の発見が試みられます。今回のミッションの最も重要な任務は、土壌サンプルを採取し、これを容器にしっかりと密封して決められた場所に配置し、後のミッションで地球に持ち帰ることができるようにすることです。探査車内部でサンプルを取り扱う場面では、複数の maxon モータが使用されます。たとえば、ステーション間でサンプルを運ぶロボットアーム内にも maxon のモータが取り付けられています。また、サンプル容器の密封および配置にも maxon モータが使用されます。

これらのドライブは、maxon のカタログ標準製品 (9 個の EC 32 フラットモータ、1 個のEC 20 フラットモータ、GP 22 UP プラネタリギアヘッドの組み合わせ) を基本とし、これに改造を施したものです。maxon のエンジニアは、NASA のすべての無人ミッションを担うジェット推進研究所 (JPL) の専門家と密接に連携し、何年にもわたってドライブの開発と綿密な試験に取り組み、最高の品質基準を達成してきました。

Landscape_Mars2020
EC32_flat_Mars2020_front
EC20_flat_GP22HD_Explosion
Landscape_Mars2020
EC32_flat_Mars2020_front
1/3

探査車 Perseverance (パーセベランス) は 2021 年 2 月に火星に着陸しました。搭載されているのは、10 個のブラシレス DC モータ、9 個の EC 32 フラット (上)、1 台の EC 20 フラットと GP 22 UP 遊星ギアヘッドの組み合わせです。

壮大な旅立ち

探査車 Perseverance (パーセベランス) は 2021 年 2 月 18 日に火星に着陸しましたが、今回着陸したのは探査車だけではありません。探査車には、「Ingenuity (インジェニュイティ)」と名付けられたヘリコプター型ドローンが取り付けられています。太陽電池を搭載した重量 1.8 kg のこのドローンは、短距離飛行に対応し、航空写真を撮影する性能を備えています。今回の実験は主に、この種のドローンをさらに使用していくコンセプトを試験することが目的です。もちろん、maxon はこのデバイスの開発にも携わってきました。直径 10 mm の 6 個のブラシ付き DCX モータがロータブレードのピッチ角を制御し、飛行方向を制御します。

4 月 19 日月曜日、このヘリコプターは火星の表面を約 40 秒間飛行し、4 本の脚で着陸しました。NASA にとって、これは 1903 年にライト兄弟が成し遂げた世界初の飛行と同様に歴史的な出来事です。  当初、NASA は 5 回の飛行を実行する計画を立てていましたが、ミッションを 30 日以上延長することを決定しました。この次の段階では、Ingenuity (インジェニュイティ) は探査機の 1 キロ先まで飛行し、地質学的特徴を偵察し、Perseverance (パーセベランス) が到達できない領域を探索します。

探査機 Sojourner (ソジャーナ) が火星に着陸してから 24 年。maxon は再び、火星における壮大な技術的偉業の一部を担うこととなりました。

Mars_Helicopter

maxon のドライブは火星ヘリコプターにも搭載されています。6 個の DCX モータがロータブレードのピッチ角を制御します。

maxon – 宇宙革命への貢献

今日、maxon は宇宙プロジェクトの重要なサプライヤーであると言っても過言ではありません。スイスを拠点とする同社のドライブシステムは、衛星にも搭載されています。また、ロケットエンジンの制御に使用されたり、国際宇宙ステーション (ISS) に設置されたりもしています。この成功は決して偶然ではありません。maxon のエンジニアは、NASA のすべての無人ミッションを扱うジェット推進研究所 (JPL) など、顧客との緊密な協力関係を通じて、長年にわたって開発に専念してきました。その結果、品質基準は次第に向上し、新しい試験手順やプロセスが開発されました。

現在 maxon は、すべての宇宙プロジェクトを取り扱う専門チームを擁しています。ただし、あらゆる種類の異なるアプリケーションに取り組む基本的なアプローチは、これまでと変わりません。標準カタログ製品は、すべての要件を完全に満たすまで修正および試験が繰り返されます。このアプローチは、宇宙ミッションの分野で現在起きている革命において、重要な役割を果たしています。高価な特殊製品が、改良が進んだ工業標準製品に置き換えられるケースはどんどん増えています。これにより、プロジェクトのコストが削減され、宇宙プロジェクトにより多くの人々が参加できるようになりました。maxon は、今後数年間で、この「新宇宙」市場向けにさらに多くのエキサイティングなアプリケーションの開発に挑みます。

さまざまな火星および宇宙ミッションへの maxon の貢献についての詳細は mars.maxonworld.com をご覧ください。

Exomars_Rover_web

2022 年に火星への打ち上げが予定されているエクソマース探査機では、構成が異なる 17 個のブラシ付き、またはブラシレス DC モータが、ギアヘッド、ブレーキ、およびエンコーダと組み合わされています。

2022 年、欧州初の探査車が離陸します

欧州宇宙機関 (ESA) が火星に送り出す ExoMars (エクソマーズ) 探査車には、50 個以上の maxon ドライブシステムが搭載されています。「Rosalind Franklin (ロザリンド・フランクリン)」と名付けられたこの探査車は、もともとは 2018 年に打ち上げられる予定でしたが、ミッションは 2020 年まで延期されました。現在、このミッションは 2022 年に予定されています。探査機の移動と制御、ドリルの駆動、ソーラーパネルやカメラヘッドなどの操作には、DC モータ、ギアヘッド、エンコーダで構成される駆動システムを複数組み合わせる必要があります。

画像著作権
NASA/JPL-Caltech; ESA; maxon Group

著者: Stefan Roschi

© by © maxon motor ag