maxon Story

次世代の月探査機

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Astrobotic 社のPlanetary Mobility (惑星モビリティ) 部門が設計した CubeRover は、月面でさまざまな科学機器やペイロードを運搬および操作するためのサービスを、手頃な価格提供できるように設計されています。

Astrobotic 社が開発したこの CubeRover は、NASA の「中小企業技術革新調査 (Small Business Innovation Research:SBIR)」および「ティッピングポイント (Tipping Point)」プログラムを通じて資金提供を受け、NASA のケネディ宇宙センターからのデータを基に開発されました。月への飛行準備が整った探査機への期待は今、最高潮に達しています。Astrobotic 社は CubeRover 製品ラインを改良およびカスタマイズし、月面での技術実証や科学調査への参入障壁を取り除くモビリティサービス (MaaS) を提供しています。この探査機は、複数の月着陸船との互換性が確保されるように設計されており、今後の月面ミッションで有用性を最大限に発揮することが期待されています。

CubeRover は、コンパクトかつ軽量で、極端な気候変動にも対応し、探査機上で動作する計器の可動性を最大限に高める必要がありました。Astrobotic 社は、軽量設計、使用素材、バッテリサイズ、およびモータの選定を重視し、重量わずか約 4 kg の、これまでで最も軽量な商用惑星探査機である CubeRover を完成させました。これにより、飛行コストが大幅に削減され、より多くの人々が月面事業に参入しやすくなっています。 

CubeRover にはキャリブレーション済みカメラが装備されており、これによって、Astrobotic 社のペレグリン (Peregrine) 着陸船など、月面上の既知の物体に対して自身の向きを合わせることができるようになっています。探査機のオペレーションチームが使用するこの位置データは、収集されたミッションデータの価値を高めるものです。これにより、ペイロード顧客は次に移動する場所についての情報を得たうえで決定を下し、データにローカル位置情報をスタンプすることができます。さらに、Astrobotic 社は、CubeRover ペイロードユーザーズガイドで定義されている探査機全体に業界標準のインターフェースを組み込み、ペイロード統合プロセスを簡素化しました。 

現在は、Astrobotic 社とケネディ宇宙センターの粒状力学およびレゴリス運用研究所でテストが進行中です。同チームはさまざまな月のレゴリス模擬体で CubeRover のモビリティ試験を実施しています。これらのテストにより、ミッション中に遭遇する斜面、裂け目、およびその他の表面の不規則性における探査機の性能が特徴付けられます。

「つまり CubeRovers は、月面の研究に従事する人々のためのライドシェアなのです」

Astrobotic 社惑星移動部門の主席メカニカルエンジニアであるトニー・アーバックル氏は、「私たちは多数のペイロードアプリケーション向けのモビリティプラットフォームを作成しました」と述べています。つまり CubeRovers は、月面の研究に従事する人々のためのライドシェアだといえます。CubeRovers には、標準的なフォームファクタで多様な機器パッケージをサポートするという点において、CubeSats に類似した方法論が採用されています。CubeRovers は、国際的に実証されている CubeSat のサイジング方法を利用して、ペイロードの体積と運搬能力を定義します。1 kg のペイロードを支持する 10 cm x 10 cm x 10 cm の体積は、ユニットまたは「U」と呼ばれます。現在 Astrobotic 社では、ペイロード市場の需要を満たすために、2U、4U、および 6U の CubeRover サイズの開発が進行しています。

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遊星ギアボックスを備えた maxon のブラシレス DC フラットモータは、CubeRover の高い信頼性と動作寿命の長さを実現するために特別に改良されています。 © maxon

CubeRover のドライブトレインには、宇宙や月面の過酷な環境で使用するために最適化された、4 台の maxon BLDC モータとギアヘッドが使用されています。これらのアクチュエータの宇宙仕様は、産業用カタログに相当する製品から改良されており、元々は Mars2020 パーセベランス (Perseverance) 探査機ミッションの一環として JPL で開発されました。火星向け仕様の設計の認定に成功した後、maxon は設計および関連する製造技術を最適化し、(火星科学ミッションと比較して) よりコスト重視の商用宇宙アプリケーションを創り出しました。

目標は、Mars2020 ミッション固有の設計機能を取り除きつつ、モータを衝撃、振動、真空、および広い温度範囲に対して耐性を示すあらゆる主要な設計機能を保持することでした。その結果、これらのモータと付属のギアヘッドが、計画されている宇宙定格のカタログ製品として真っ先に完成に至りました。 

設計と同じく重要なのは、強化された品質保証の手順が実装されている生産技術です。さらに、拡張されたATP (受領試験手順) には、たとえば、納入された各アクチュエータの 100% 負荷試験が含まれています。これにより、用途環境条件と信頼性要件に適し、かつ質量が最適化された高出力密度の堅牢なモータとギアヘッドが完成します。

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始まりは、CubeSats のインスリンポンプのドライブから

CubeRovers の設計に組み込まれた技術は、ジェット推進研究所 (JPL) が他のミッションで使用した技術に基づいて開発されています。これが、maxon の電気モータとギアヘッドが当該設計に組み込まれた理由のひとつです。maxon は、現在のパーセベランス (Perseverance) 火星探査車やインジェニュイティ (Ingenuity) ヘリコプターなど、多くのプロジェクトで ESA と NASA に深く関わってきました。

また maxon は、宇宙定格 X ドライブシステムのローンチカスタマーとして、Astrobotic 社と協力関係を結んでいます。このドライブシステムは、高度に規制された maxon の医療アプリケーション設計から派生したモデルであり、通常は携帯型インスリンポンプで使用されています。このシステムのターゲット市場は、増加し続ける CubeSats および関連メカニズムです。

CubeRovers の最終的な目標に基づいて設計上のチャレンジとこれに伴う修正を実施した後、Astrobotic 社は maxon の宇宙技術に独自の付加価値を生み出しました。宇宙科学ミッションのために開発された設計を活用し、低コストで信頼性の高い設計を実現することで、同社は成功を確信しつつ新たな商用市場を開拓しています。maxon は、新しい商用宇宙カタログ製品を提供することができる最初のお客様として Astrobotic 社と協力できることを非常に光栄に思うとともに、、2022 年の初飛行の成功を心待ちにしています。

aerospace.maxongroup.com

著者: Robin Phillips

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