maxon Inside
火星ドライブを支える人々
maxon とジェット推進研究所 (JPL) の宇宙専門家との長年にわたる密接な協力により、パーセベランス (Perseverance) で火星の貴重な土壌サンプルを処理する BLDC モータが開発されました。これらのアクチュエータの開発を支えた maxon のスペシャリストに会い、彼らの情熱をかき立てるものが何であるのかを伺ってみました。
かつて、火星には生命が存在したのでしょうか?この疑問に答えを見つけるため、NASA はパーセベランス (Perseverance) 探査車を火星へと送りました。この探査車が採取した土壌サンプルは、後で地球に持ち帰られることになります。このミッションは、膨大な準備作業、骨身を惜しまない努力、最新鋭技術の集大成です。
探査車の内部に搭載された 10 台の maxon ドライブが火星の貴重な土壌サンプルを取り扱い、火星の表面に配置します。サンプルは、その後のミッションで地球に持ち帰られます。使用されるドライブには、遊星ギアヘッド GP 22 UPと組み合わされた 9 台の EC 32 フラットモータと 1 台のEC 20 flat が搭載されています。さらに、6 台の DCX 10 モータが火星ヘリコプターのスウォッシュプレートを制御し、飛行方向を決定します。
赤い惑星は、時を超えて人類を魅了します。火星の魅力は、これらのプロジェクトに実際に携わった maxon の人々の発言がはっきりと証明しています。ここで、彼らの火星にまつわるストーリーを紹介しましょう。
デニス・フーグリング氏、プロトタイピング生産メカニック
「まさに、私にとっての天職です」。デニスはこう語ります。航空宇宙、医療、ロボット工学といった様々な分野におけるプロジェクトでプロトタイピングを製造する彼女の仕事は、決して退屈になることがありません。
しかしもちろん、宇宙で使うドライブとくればとりわけ特別です。ここでは、プロセス、テスト、記録のすべてが、より広範囲で行われます。くわえて、デニスと彼女の同僚は多大な責任を担っています。しかしデニスと同僚たちのチームは、どんなに大きなプレッシャーにも屈することのない精神を持っています。同チームは長年にわたって ESA と NASA の火星プロジェクトに従事し、共に成長してきた小さな家族のような絆を築き上げています。
こうした経験を通じて、デニスは火星でのミッションがすべてうまく機能していると確信しています。「私は、異世界に飛行する製品の開発に携わることができたことに、本当に感謝しています。誰しもがこのような機会を得られるわけではありませんから」。
「インスピレーションは白紙からは生まれない。私はそう信じています。私が画期的なモータやコンポーネントをワークステーションに多数集めたのも、そうした思いがあってのことです。NASA のパーセベランス (Perseverance) 探査車で現在使用されているブラシレスドライブの主なアイデアは、これらのコンポーネントのひとつから得た閃きによって生まれました。この探査車は、火星でサンプルを収集します。それらのサンプルを取り扱うのが、当社のモータです。このため、これらのモータはミッションを成功に導くうえで、非常に重要な役割を果たしているのです。私たちが今住んでいるこの太陽系について、人類が謎を解明することに貢献できることを、とても光栄に思っています。宇宙ミッションは人類の歴史を発見する探検であり、最高の技術基準でのみ達成することができるものです。こうしたミッションで、当社の精密ドライブは、しばしば重要な役割を果たしています。失敗は許されません。それがこうしたミッションに携わる醍醐味でもあります。SpaceLab の責任者として、私は常に社のために最先端技術を模索しています。また、社員が自身の業務を可能な限り完璧に遂行できる環境を整えることにも取り組んでいます。幸いなことに maxon では、これらは常に改善されてきました。以前は、私たちは指定された変更を加えたドライブを納品するだけで、その後の責任はお客様にお任せしていました。しかし今では、私たちは航空宇宙分野のアプリケーションに関する専門知識を有し、この産業の期待に応えることができる品質保証プロセスを確立しています。医療部門など、厳しい要件が求められる他の分野のお客様にも、これらの知識が役立っています。宇宙プロジェクトには、多くの忍耐が求められます。私は 10 年以上この仕事に就いていますが、私のドライブが徐々に使用されるようになったのは、つい最近のことです。それだけに、すべてが完璧に機能したときの達成感はひとしおなんです」。
ハンナ・クレーブラット氏、品質エンジニア – プロジェクト
宇宙プロジェクトでは、品質エンジニアのハンナは他の分野のアプリケーションよりも、ずっと多くの作業に追われます。彼女は、複雑な検査計画を立て、詳細な文書を作成し、製品と文書の広範な検査を行った後、プロジェクトを承認します。くわえて、火星ミッションに用いられるドライブの場合、作業手順、材料、製造方法とすべての手順は、お客様によって厳しく精査されます。このようなプロジェクトは、彼女と maxon にとって飛躍するチャンスであるとハンナが説明する理由はここにあります。プロジェクトを通じた学習のポテンシャルは膨大であり、非常にたくさんの知識を吸収する機会が与えられます。それに、時には奇抜なソリューションを採用しなければならないこともあります。ハンナと同僚には、たとえば近郊の医療会社から内視鏡を入手し、NASA 火星ギアヘッドの内部ギアフランジをミリ単位で検査した経験もあります。
ドミニック・フレイ氏、プロジェクトマネージャ – ギアヘッド開発
ドミニックは、複雑な要件が求められる航空宇宙プロジェクトに強く好奇心を掻き立てられてきました。彼はプロジェクトマネージャとして、常にお客様のニーズを優先しています。さらに、設計から購買、品質管理、そして生産に至るまで、関連するすべての部門を管理し、最適なソリューションを見つけ出す役割も担っています。彼は宇宙研究者と同様に、時には新境地を開拓し、可能性の限界を押し広げることさえします。このような状況下で、彼自身が技術的問題を解決し、変革をもたらす自由を maxon から与えられていることを、彼は高く評価しています。彼の設計アイデアはすでに航空宇宙分野で応用されており、彼が火星ミッションの進捗を情熱をもって見守っているのも十分に理解できます。
フロベラ・コスタ氏SpaceLab プロジェクトマネージャ
「NASA の史上初のヘリコプターが火星を飛行する日が待ちきれません。航空宇宙部門の技術プロジェクトマネージャとして、私はヘリコプターの制御に使用される DC モータ、正確にはスワッシュプレートの開発に携わってきました。私にとって、このようなプロジェクトは、正に夢がかなったという気持ちです。特に、厳しい納期に間に合わせることができ、当社の製品がすべての認定テストに合格したときは、なおさら大きな充実感が得られます。このような素晴らしいプロジェクトに参加できることを非常に光栄に思います。もちろん、これは多くの人々の協力なしでは成り立ちません。私は、お客様と maxon のさまざまな部門をつなぐ役割を果たしています。品質、納期、コストの面で要件がすべて満たされていることを確認するのが私の役目です。開発から製造まで、maxon に関わるすべての人たちと連絡を取り合う自分の任務をとても気に入っています。航空宇宙産業は常に好奇心をかき立てられる分野です。自分は、宇宙プロジェクトに携わることができ、本当にやりがいを感じています。こうしたプロジェクトには、他のアプリケーションとは異なる点が多々あります。何よりも、振動や温度に対する耐性など、全体により高い品質要件が求められます。このため、すべてを分析して試験する必要があります。当社の標準モータに使用される部品は、宇宙や他の惑星で確実に機能するように再評価されています。膨大な作業ですが、それだけやりがいのある仕事です」。
ドミニック・オムリン氏、生産エンジニア、航空宇宙部門
「火星モータの製作は、ほぼすべてを手作業で行う必要があります。あらゆる作業とすべての組み立てステップは文書化され、正しく行われなければなりません。失敗は許されません。私たちは、簡単に倉庫から入手できないような素材も取り扱っています。火星で問題が生じても、修理する方法などないことを常に心の中で意識しています。私たちのドライブは絶対に正常に機能しなければなりません。ミッション全体が失敗に終わる可能性があるからです。そのため、私たちはあらゆる可能性について話し合い、次のステップについて議論し、2 人目の担当者による厳密な二重検査を行いながら作業を進めています。当社の特別生産チームは、宇宙アプリケーション向けのモータとドライブを組み合わせた製品を組み立てます。しかし、それだけではなく、医療分野、ロボット工学、およびその他の産業向けの注文にも対応しています。ひとつひとつが異なるプロジェクトに向き合う私たちは、 maxon のモータ製品群について幅広い知識を有しています。航空宇宙分野の生産エンジニアとして、私は多くの任務を遂行しています。それらには、詳細なプロセス記述文書の作成、ドライブの製造、従業員のトレーニング、およびエンジニアリング部門との緊密な連携が含まれます。また、モータを粒子から保護するクリーンルームで数時間過ごすこともあります。クリーンルームでは集中して仕事に臨めます。Mars 2020 プロジェクトでは、肩越しに常に監視されているという感覚があり、それは必ずしも簡単な状況ではありません。クライアントである JPL のスペシャリストは、私たちと緊密に連携しており、本社を何度か訪問してくれました。私たちは彼らと課題について話し合い、協力して解決策を見つけてきました。私はこれらの宇宙ミッションの一員であることを誇りに思っています。また、私たちがもたらした功績にお客様がとても感謝してくださっていることが伝わってくるのです。それが仕事への満足度をさらに高めてくれます」。
カタリン・チェルジッシュ氏、プロジェクトサンプルアセンブリ責任者
カタリンは、日々変化に溢れる仕事内容に高いモチベーションを感じています。彼女が指揮するプロジェクトサンプルアセンブリチームでは、モータ、ギアヘッド、エンコーダなどで構成される個々のギアヘッドまたはシステムが製造されています。宇宙分野、医療技術、産業分野など、どんな分野のプロジェクトであっても、課題・難題は避けられません。彼女のチームは、maxon が駆動ユニット一式を提供している欧州宇宙機関 (ESA) の火星探査車プロジェクトにおいて、技術面でも組織面でも、これまでにないほど多くを学ぶこととなりました。「これらの宇宙プロジェクトは、自分自身のコンフォートゾーンから脱却できなければ成長はないということを示しています。私が手にした製品が、いつか火星で活躍することを知り、とても誇らしく思います」。
アイコ・ステンツェル氏、航空宇宙設計エンジニア
「過去 7 年間にわたり、私はさまざまな火星ミッション用ブラシ付き DC モータを構築する機会に恵まれました。すべての始まりは ESA の ExoMars プロジェクトでした。このプロジェクトでは、13 台の異なるドライブの設計に携わりました。これらの設計内容には、岩の多い地形で車輪を持ち上げることができる、探査車の革新的ホイールドライブも含まれていました。このために、私たちは新しい純磁気コギングトルクブレーキを開発しています。これは、探査車が斜面を転がり落ちるのを止めるために採用されたアイデアです。ただ、これまでで最もエキサイティングなプロジェクトは、NASA の火星ヘリコプターでした。私には、ロータブレード制御用に maxon DCX 10 ドライブを開発する機会が与えられました。これらの小型直流モータは 6 台必要でした。最大の課題は、極端な重量要件を克服することでした。ヘリコプターが火星の薄い大気中を飛行できるようにするには、10 分の 1 グラムでも機体を軽くする必要がありました。こうした軽量化したにもかかわらず、ロータブレードを調整するのに十分な電力を備え、あらゆる振動や温度変動にも対処できるソリューションを見つけたことは、本当にすごいことです。宇宙ドライブと地球上のドライブの主な違いは、エンジニアリング、材料、およびプロセスにおいて、可能性の限界を押し広げていることです。たとえば、シャフト製造のために特殊な硬化プロセスを開発し、シャフトをより頑丈にするという作業も行われたりしました。さらに宇宙分野では、詳細な部品表、重量仕様、重心計算、プラスチック部品の表面積計算など、常に多くの文書が必要です。たとえば、私たちは火星ドライブ用に特殊な溶接技術を開発しましたが、これは現在、標準的な商業生産においても使用されている技術です。まもなく、maxon マクソンのカタログには ExoMars 用に設計された磁気保持ブレーキがカタログ製品として含まれます。すごいことだと思いませんか?」
ティロ・ファイファー氏、生産エンジニア – ドライブ
航空宇宙産業用の精密ドライブが用いられるアプリケーションでは、明確かつ完全に文書化された作業プロセス、システム、操作材料、機器、および人的資源の完全な相互作用が成功への鍵となります。また、可能な限り効率的で、かつ高い信頼性を有する生産を目指す必要があります。こうした環境が、生産エンジニアであるティロが心地よく感じる世界です。スムーズな生産に必要なすべての要素を確保し、各基準が順守されていることを確認することが彼の任務です。組み立て部門に従事する同僚は、さまざまな作業ステップ、および特に安全性やドライブの構築時に何に注意を払う必要があるかを十分に理解しています。ティロは、標準、プロセスステップ、または予防措置が重要である理由と、その背後にある理由を同僚に説明することを重視しています。成功を収めた火星ミッションに貢献しているという事実が、彼の仕事への情熱をさらに高めています。
Mars2020
現在進行中の NASA パーセベランス (Perseverance) ミッションに対する maxon の貢献について、詳しくはこちらをご覧ください。 mars.maxonworld.com