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真空技術工場

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半導体産業では、清浄度と精度が絶対不可欠です。このため、スイスの真空スペシャリストVAT社は、マクソンと共にウェハ用ドライブシステムを開発しました。

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この3つのピンリフターがウェハを真空チャンバー内で移動させます。 Photo: VAT

技術に関心がある人にとっても、「真空バルブ」という言葉はさほど興味を引くものではありません。真空バルブの何がそんなに魅力的だというのでしょう?このテーマへの関心が本当に目覚めるのは、スイス東部のハーグに拠点を置き、国際的に事業を展開する企業であるVAT社を訪れたときでしょう。産業界において真空が必要とされる場面では、常にVAT社の名が第一候補に挙がります。簡単に言ってしまえば、真空バルブとは、真空装置の出入り口を開放・遮断するバルブです。しかしながら、「真空」と聞いて、スーパーマーケットに並ぶ真空パックの食料品を思い浮かべるのは、この場合は正しくありません。産業界において真空チャンバーが特に必要とされるのは、たったひとつの粉塵や水滴が生産ステップ全体を台無しにしてしまうような分野です。すなわち、まさに今を時めくハイテク産業がこれにあたります。スマートフォン、フラットスクリーン、太陽電池パネル、プロセッサをはじめ、その他にも多くの製品の製造は、真空装置なくしては考えられません。これに呼応して、VAT社はそのシステムの大半を、マイクロエレクトロニクスや半導体技術分野のビッグプレイヤーの拠点であるアジアへ供給しています。 

 

ウェハのためのエレベータ


マイクロエレクトロニクス分野における重要なプロセスに、いわゆるウェハの製造と加工があります。ウェハは、シリコンなどの半導体材料から作られる円形の薄い板のことであり、この円盤が集積回路の土台となります。スマートフォンなどに内蔵されている最新のプロセッサにおいて、数十億ものトランジスタが機能していることを考えれば、半導体基盤の生産にはいかなる異物も混入してはならないことがわかるはずです。そして、この条件を満たすためには、そのような生産プロセスを真空チャンバーで行うのが最適です。ここで問題となるのは、真空度が高ければ高いほど、外部から受ける圧力は高くなるということです。プロフェッショナルな真空チャンバーには膨大な圧力がかかります。通常のバルブでは、この圧力には到底耐えることはできません。しかし、VAT社のバルブならそれが可能です。

ここ数年で同社はさらに進歩を重ね、バルブだけでなく、真空チャンバーにおけるさまざまな生産プロセスに対応する完全なシステムも提供するようになりました。そのようなシステムのひとつが、ピンリフター(Pinlifter)です。これは、シリコン製ウェハ用の一種の「エレベーター(英語では「リフト」)」です。ウェハは3本のピンの上に載っており、それぞれのピンがモータで垂直方向に移動できるようになっています。この、3本足のエレベータ(3つのピンリフター)とも呼べるシステムにより、その上に載っているウェハは真空チャンバー内を上昇します。そしてそこで、ハンドリングシステムがウェハを受け取る仕組みです。ここでマクソンの出番です。ピンリフターは、VAT社とマクソンの数か月にわたる共同作業の結果出来上がった、高精度のメカトロニクスドライブシステムです。ピンリフターのドライブユニットは、光学式エンコーダを装備したブラシレスEC flatモータ、ブレーキ、スピンドルで構成されています。ドライブユニットの長さが最大40 mmに制限されていることが、大きなチャレンジでした。 

VAT社の技術リーダー、マルコ・アポッローニ氏は、当時を振り返ってこう語ります。「当初、6件ほどのコンセプトを検討し、モータ、ブレーキ、エンコーダなどの分野のさまざまなサプライヤーが候補に挙がりました。そのうち4つのコンセプトでは、コンポーネントとしてのアプローチが前面に押し出されており、あとの2件はシステムとしてのアプローチでした。後者では、ドライブ全体がテスト済みのユニット(ハウジング、スピンドル、モータ軸、絶縁エレメント)として想定されていました」。「精度とサイズに対する必要条件のレベルが高いことから、システムのアプローチのみが最終候補に残りました。システムのアプローチならば、多くのリスクを最小限に抑えることができ、最適なソリューションを実現させることができるからです」と、マルコ・アポッローニ氏は説明します。 
「マクソンが持つ技術的な専門知識は、実に納得のいくものです。さらに、マクソンではすべてがワンストップで揃います」。 

Author: Adrian Venetz

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