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高温に対応するDCモータ
maxonのカタログと技術仕様をご存じの方であれば、maxonのモータには使用温度範囲と最高巻線許容温度の指定があることにお気付きになるでしょう。ほとんどのDCモータの使用温度範囲は 85⁰C~100⁰C、最高巻線許容温度は 100⁰C~125⁰C です。これはなぜでしょうか?
まずはじめに、周囲温度と巻線温度の温度差を考慮する必要があります。入力電源は、電圧 (V) と電流 (A) に分類されます。電圧は回転数を決定し、電流はトルクを決定します。モータの使用中には、電流により巻線内で熱が発生します。このため、周囲温度が高い環境でモータが動作する仕様になっている場合は、通常の作業場の温度のときほどの激しい動作はできません。さもないと、モータが燃え尽きてしまうからです。
熱に伴って生じる問題は何ですか?
モータの内部には、永久磁石と電磁石、モータ巻線によって生成される磁気回路があります。そして永久磁石と巻線の両方が熱の影響を受けます。ネオジム磁石は160℃前後で減磁し始め、保磁力がどんどん弱くなります。残念ながら、モータを冷却しても元には戻らず、これは永続的な劣化となります。巻線は、安定性と絶縁性を発揮する絶縁ワニス被膜で覆われています。温度が160⁰Cを超えるとワニスが柔らかくなり、巻線が変形して摩擦が生じ、絶縁体がすり減ってショートし、モータの故障の原因となります。温度が非常に高温だと、ワニスと断熱材が溶けて、ここでもショートが発生する可能性があります。いずれにせよ、モータが破壊されてしまうのです。
maxonの高温に対応したモータ
石油、ガス、地熱エネルギー資源の開発のために、地層を掘削したり、航空機エンジンのバルブアクチュエータなど、温度が高い環境でモータを使用することは珍しくありません。maxon では、そうした環境に対応するために設計されたさまざまなDCモータを取り揃えています。ブラシレス HD (ヘビーデューティー) 製品レンジは、最高200⁰Cの周囲温度で動作し、最高巻線許容温度は240⁰Cに対応しています。
これらのモータは、このような高温でどのように動作しますか?
maxon HDモータの磁石は、サマリウムコバルト (SmCo) で製造されています。サマリウムコバルト希土類磁石は、はるかに高い温度に達してから減磁を開始するという特性があります。巻線に使用される銅線には、より高い温度定格の絶縁体も備わっています。また、含浸ワニスはこれよりもずっと高い定格温度の仕様となっており、動作温度範囲全体で巻線を確実に安定した状態に維持します。
なぜすべてのモータをより高い温度に対応させないのですか?
高温用モータは、簡単に製造できるものではありません。銅線に使用される強化絶縁体は非常に硬く、これを巻くことは通常よりもはるかに困難な作業となります。また、これはすべての巻線パターンに適合するわけではありません。もうひとつの理由はコストです。特殊な材料であればあるほど、コストも高くなります。必要のない用途に、より特殊で高価なモータを人々が求める理由などあるでしょうか?
大量生産の用途では、限られたHD製品群に適切なモータがない場合、maxonはより高い温度が必要なプロジェクト向けに標準モータをアップグレードすることができます。 maxonは、巻線の製造の実現可能性を調査し、巻線の生産バッチを作成して、ワイヤから十分な歩留まりが確保されるようにします。最終的に、十分な高さの歩留まりが保証されれば、サンプルモータが製造され、技術仕様が検証されます。
周囲温度の限界を超えるようなアプリケーションの場合、どうしたらよいでしょうか?
maxonのテクニカルセールスエンジニアに是非お問い合わせください。私たちは、環境と用途に適した、最適な製品を特定するための知識とスキルを有しています。
まず最初に、用途について一連の質問をさせていただきいます。出力に必要な速度とトルクは? モータのデューティサイクルは?使用する入力電源は?次に、環境、温度、衝撃/振動などについて調べます。さらに、その他の制限、スペース、質量などについてもおたずねします。すべてのデータを収集したら、ソリューションを提供するために適用可能なオプションの検討を開始します。
使用中に高温になる場合は、モータが焼損しないよう、熱解析を実施する必要があります。ここでは、特定の周囲温度に基づいて、デューティサイクル全体の回転数とトルクのプロファイルを解析します。maxonが開発したソフトウェアを使って、巻線温度などの重要情報を取得できます。巻線は最高許容温度に達するか、またはそれ以上になるか?デューティサイクル中に十分な冷却時間は設けられているか?複数のサイクルを実施した後、最高巻線許容温度を下回っているか?
私たちは、トレーニングと使用可能なツールを活用して、要件に対応するソリューションのみを仕様として指定します。